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お題 [淡]

005、花に埋もれ

*死ネタです。苦手な方はバックしてくださいませ*










 蒼白な顔と白い花、

 むせかえるような匂いに

 いつも男から香る香水の香りはなかった。
















                                           [花に埋もれ]
                                              2006.09

















その連絡を受けたのはついさっきだった。
丁度駅に着き、あと数時間でそちらにいけるだろうという
簡単な報告をするつもりで司令部へと連絡を入れて、
逆にああ、よかったと安堵されたのだ。

『エドワード君、こちらからだと中々連絡が付かなくて…
 今、ドコに居るの?すぐ戻って来れるかしら? 』
『うん、今そっち向かう途中であと2時間くらいで着くと思うけど
  …どしたの?』
『落ち着いて聞いてね』

耳から伝わる声のほかの音に、騒がしく動き回っている音と
話している声が一緒に入ってくる。
中尉の声も何時もと違って聴こえる。

『大佐が…』

嫌な予感がした。
ぞくりと背中を這い上がる言いようのない感覚があって
ごくりと、受話器越しに中尉に聴こえてしまうんじゃないかと思うくらい
大きく喉が鳴ったような気がした。

『  殉職、 されたわ』

耳鳴りがする。
徐々に中尉の声が小さくなり、聴こえなくなった。
足元がぐらりと揺れた。
ガタンと電話ボックスに当たって 自分自身が 揺らいだのだと気付く。
小さなボックスで自分の体が尚更小さく感じてしまうくらい
思いっきりぶつかった。
痛みは全く感じなかった。どこか痺れた感じの鈍さがあるのを
ぼんやりと思った。
アルが目の端でこちらの異変に気付いたのか駆け寄ってくる。
アルのために笑ってやる事も、
気にするなと手をあげてやる事も出来なかった。
徐々に耳鳴りが収まった時に中尉の心配する声が聴こえた。

『………くん』
『エドワード君?』
『ごめん…どこ、行ったらいいの?』

じっとりと汗ばんだ受話器に耳を傾けた。
自分の声が、案外しっかりとしていて安心した。
脳みそがまだ思考回路を持っていて安心した。
やるせない気持ちを落ち着けるくらいには冷静で安心したが、
アルに対しての顔には自信がなかった。
もしかしたら泣き出しそうな顔をしてたのかもしれない。
フラフラと出発を待つ列車に乗り込んだ後は何も考えたくなかったので
他愛のない会話をし続けた。
アルは黙って相槌を打っていたが、いつもよりも沈んだ眼差しが苦しかった。







着いたのは電話してから2時間後。

盛大な葬儀に少年の姿は不釣り合いだったが、
そんな事はお構いなしに棺桶に横たわる男にずかずかと近づいた。
葬儀は既に終わっていて、部屋には自分達以外に人の姿はない。
小柄な男には不釣合いの大きな棺桶に 静かに横たわっていた姿を見る。
白い百合の花が体を覆いつくしていて、血色の悪い顔によく映えていた。
よく見たら薄く化粧をされ、唇にも紅が引かれている。
膝をつき顔を近づけるとむっとした甘い匂いに鼻が曲がりそうだった。
アルがカシャンと音を立てて立ち尽くしている。
列車の中でも最初に伝えただけで詳しくは話していなかったから
自分と同じ様に今の情況を静かに見つめているのかもしれなかった。

「大佐…?」

静かな寝顔はいつもの男のもので、
呼んだら起き上がるんじゃないかと錯覚してしまうくらいだ。
白い白い花の中に横たわって静かに寝ているのかと思ってしまう。
違うのはこの香り。

「…何寝てんだよ」

顔にそっと触れてみた。
爬虫類の様にひんやりとしていて男の体温など一つも残ってなかった。
中尉からの電話の後も、列車での移動中もその時見た景色も
その時喋った他愛のない会話も、隣に座った子供たちも
霞がかかったかのように現実味がなかったが、
この瞬間からこれが現実なのだと引き戻された気がする。






―――――――――― ロイ・マスタングという男の死に






凍り付いていた何かがはじけた感じがした。
ドクドクと全身を溶けた血が駆け巡っているのか 体中が熱をもつ。
何もかもがチカチカと光って見えたし、目の前の男の
やけにキレイな顔を殴ってやりたくなった。
自己主張を続ける百合の花が腹立たしく感じた。
「…ッ」
何か喉から出そうになった言葉を飲み込んだのは
いつの間にか後ろに立ったアルフォンスが静かに静止を意味する
手を肩に置いたからだった。
「兄さん」
静かに囁くような声はいくらか体温を下げる。
男の死に くやしさを感じた。







「エドワード君、アルフォンス君」

凛とした声が部屋に響く。
何時の間に部屋に入っていたのか気付かなかった。
カツカツと何時もはしないヒールの音が響く。
その時初めて中尉の格好も何時もの軍服ではなく、
正装用の軍服であることがわかった。
見慣れないスカートに視線をやり、すぐに男に視線を戻す。

「もうそろそろ閉めないと…申し訳ないんだけれど、一緒に来てくれるかしら?」
「すみません、中尉。…ほら、兄さん」

何時までも男から視線を外さないエドワードにアルフォンスが
移動するように促す。
しぶしぶといった感じで動き出した兄にため息を付くと、背を押す様に
急かしながら中尉の後を追った。
いつも男が使っていた執務室に通され、コーヒーを受け取ったが
口に何かを入れる余裕はなかった。
入れてしまってもすぐ吐いてしまう気がしてならなかったからだ。

「…よく晴れた日でね、その日は中央に呼び出されていたの」

大佐の机を片しながら中尉は話す。
仕事は全く減らないのと苦笑いをし、紙の束を分けていく。

「帰り道に丁度小さな祭りがやっていて、私も大佐も懐かしく感じて
 少し立ち寄ってしまったのが悪かったのね…
 子供たちが道路を駆け回ってたのを、祭りだからと注意しなかったのが
 悪かったわ」

中尉はいつも男が座る座り心地の良さそうな椅子を撫でながら
苦しそうな顔をしていた。
自分を責め続けている感じだ。

「みんなのお土産を買ってる時に妙に大きくて鈍い音が『どんっ』って聴こえて
 子供たちと女の人の悲鳴と男の人の叫ぶ声が聞こえてきたわ…
 後ろで待っていた筈の大佐の姿は見えないし、ああいう時って上手く
 走れないものね。 」
「…大佐、が?」
「ええ」

中尉はそっと大佐の手帳をこちらに差し出し、悲しい目をした。
しばらく見ていたがそろりと受け取ると彼女はにこっと無理やり笑顔を作る。

「やはり、渡すのがあの人の意思の様な気がするの。
 私達にはわからないだろうし、悪用されても困るし…あなた達の
 求めている情報の手がかりも中にはあるかもしれないし… 」

黒皮の使い込まれた手帳はずっしりと重みがあった。
錬金術師の轍
なぜか男の体温を感じた。
僅かに染み付いたのかいつもの香水の匂いもする。
じんわりと男の気配が広がった。

(ああ、大佐だ)

そう感じた瞬間ぐにゃりと視界が歪み、ぽたりと手帳が濡れた。


ぽたりぽたりと手帳が濡れていく。


どうしようもなく大声を上げたくなった。
みっともなくていいから子供の其れの様に駄々をこねたくなった。

何故死んだのだ と。
何故!
何故!

こんなにも胸が締め付けられるものなんだろうか?
錬金術を使って禁忌を犯すつもりはなかったし、男が一番望まないのを知っている。
ただ、その道一つ無くなっただけで、可能性が無くなっただけで
こんなにも行き場がない感情があるのかと渦巻くものがある。

もう帰ってこない。
もう声を聴くことも、からかうことも、その背中を見ることも出来なくなってしまった。
どこを探してもあの優しい男は居ないのだ。

いなくなってしまったのだ…

涙は止まりそうになくオレは中尉と弟の前でみっともなく泣いた。






大総統を目指した野心家は、一人の子供を助けるために死んだ。
事故死だった。車に撥ねられ即死だったそうだ。
イシュバールの英雄の死はあっけなくもあり、新聞には適当な事が書かれていた。
彼が目指した先の世界にはまだまだ成すことがあって、
それをするのは彼しか居ないと思っていた。
彼が世界を組み立てなおすのだと勝手に想像していたし、そうするものだと思っていた。
これを聴いていたら男は少し困った笑いをし、きっと君らしくないと言うんだろう。
錬金術師ならばそういった物の考え方では困るな。と諭すのだろう。
酷く優しい声で言うのだ。

(鋼の)



と優しい声が今も耳に響く。





                                                    END





うーん、難しいですね。


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